タグ・ホイヤーといえば、角形の「モナコ」とスポーティな「カレラ」、そしてダイバーズウォッチの「アクアレーサー」が三本柱。そんなスターたちの中で、やや影が薄いのが「オータヴィア」だ。1962年にデビューしたオータヴィアは、1985年まで製造していたが、その後は限定的に復刻するにとどまり、なかなか主役の座を奪うことはできなかった。しかしそれでも歴史の中に消えなかったのは、オータヴィアがタグ・ホイヤーの歴史の中で重要なポジションを持つ時計だからである。
白黒配色によって、あえて2カウンター風に見せるダイヤルデザイン。やや柔らかな形状のベゼルは、両回転式となっている。
まずはその名称。オータヴィア=AUTAVIAとはAutomobile(自動車)とAviation(航空機)を組み合わせた造語。タグ・ホイヤーでは20世紀前期に、自動車用と航空機用として高精度ストップウォッチを製造しており、それが現在のスポーツウォッチの名門となる礎となった。
この輝かしい名前を引っ提げて、腕時計式クロノグラフとしてデビューしたのは1962年のこと。タグ・ホイヤーの名誉会長ジャック・ホイヤーが若き日に手掛けた、初めてのクロノグラフであったという。
この時計は多くに人を魅了し、タグ・ホイヤーがモータースポーツとの深く関わるきっかけとなったスイス人F1ドライバーのジョー・シフェールもオータヴィアを愛用していたという。そして1970年代になると、ブライトリングらと共同開発した世界初の自動巻き式クロノグラフムーブメント「クロノマティック」を搭載した逆リューズモデルも登場している。タグ・ホイヤーの歴史的転換期に関わってきたオータヴィアは、時計愛好家からはよく知られたカルトウォッチであったのだ。
そんな知られざる傑作に、タグ・ホイヤーが本腰を入れはじめたのは2017年から。過去のモデルを復刻するのあたって時計愛好家に協力を仰ぎ、どの時代のどのモデルを復刻したいのかを投票してもらった。選ばれたのは1966年製モデルで、F1ドライバーのヨッヘン・リントが愛用していたことで有名になったモデルで、これもまた大きな話題となるのだった。
さて、前置きは長くなったが、現在のオータヴィアは2019年にリニューアルされている。ラグがケースサイドと緩やかに連続することで、ボリューム感のあるデザインにまとめたスタイルは、1960年代モデルを踏襲したもの。ベゼルも少しカーブしており、全体的に柔らかな雰囲気になっているのが特徴だ。
- タグ・ホイヤー オータヴィア 60周年アニバーサリー フライバック クロノグラフ
自動巻き、SSケース、ケース径42㎜、100m防水
74万8,000円 - 搭載ムーブメントはCal.ホイヤー02。クロノグラフを操作するためのコラムホイールは赤く塗られており、動きを楽しめる。ちょっとした動きでローターが激しく回転するので、巻き上げ効率もよさそうだ。
ケース径は42㎜で、ケース厚は15.68㎜。このボリューム感は、自動巻き式クロノグラフとしては正統派。重心が低いからなのか、腕馴染みも良好だ。ストラップはブラックのアリゲーターストラップだが、着脱が容易な機構になっており、メタル製のブレスレットやカーキのレザーストラップ、NATOストラップなどへの変更も素早くできる。王道のスポーツウォッチではあるが、程よいレトロ感があるのでドレッシーにも楽しめるだろう。
タグ・ホイヤーはメジャーブランドゆえに、どうしても3本柱が強い。だからこそ、歴史を語れる傑作クロノグラフ「オータヴィア」が、ちょうどいいハズシになるのだ。
- ストラップは簡単に着脱できる。別売りストラップも充実しており、様々なスタイルを楽しめそう。固定ピンタイプなので、NATOストラップも着用可能にしたのも上手いやり方だ。
- サイズ感や腕へのフィットも良好。自動巻きクロノグラフのデメリットとして、ケースがやや厚くなるので、シャツの袖口とは干渉しそう。秋以降はニットやカットソーと合わせるとよさそうだ。