2023.06.08

柔らかで美しい、ドレス系クロノグラフ

　タグ・ホイヤーがスポンサーを務めるＦ１チーム「レッドブルレーシング」が好調だ。いや好調なんてもんじゃない。HONDA製（といいたい）のパワーユニットも素晴らしい出来で、向かうところ敵なしである。ポイントリーダーのマックス・フェルスタッペンは、表彰台に上る際には角形ケースの「モナコ」を着用している。しかしタグ・ホイヤーにおけるレーシングウォッチの先駆けといえば、1963年にデビューした「カレラ」だ。
　Ｆ１メキシコＧＰのサーキットの名前になっているメキシコの伝説的レーシングドライバー、ロドリゲス兄弟と仲良くなったジャック・ホイヤーが、公道レース「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」からインスピレーションを受けて生まれたクロノグラフで、視認性を高めるためにベゼルを細くしてダイヤルを広げ、着用感を高めるためにラグを長めにデザインした。
　結果的にドレッシーな雰囲気になった「カレラ」は、これ以降、スポーティエレガンスなクロノグラフとして人気を集めることになる。

タグ・ホイヤー
タグ・ホイヤーカレラクロノグラフ
自動巻き、SSケース、ケース径39㎜、100ｍ防水
80万8,500円
Watches and wondersの会場でも、タグ・ホイヤーはカレラの60周年をアピール。世界的に人気の高いクラシックポルシェの展示は、車愛好家にも好評だった。

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　そんな傑作「カレラ」が、今年60周年を迎えた。3月にジュネーブで開催された時計の展示会「Watches and wonders」では、ブースには、同じ時代に生まれた名車「ポルシェ 911 カレラ」を展示し、アニバーサリーを盛り上げた。
60年目を迎えた新しい「カレラ」のクロノグラフは、トゥールビヨンを含めて3モデル。そのうち一本が、この「タグ・ホイヤーカレラクロノグラフ」だ。

　ケース径は39㎜。これはオリジナルのカレラの36㎜というサイズよりは大きいが、昨今のクロノグラフのケースサイズとしては小ぶり。しかもベゼルが非常に細いので、サイズよりさらに小さく感じる。風防は柔らかなドーム型になっているが、これはグラスボックスと呼ばれていた７０年代モデルでよく見られたスタイル。その内側にタキメーターを配置することで、機能性は損なわずに端正なデザインに仕上げている。これは面白いやり方だ。

　もうひとつ面白いのは、カレンダーが12時位置にあること。カレンダーは3時位置か6時位置に収まるのがセオリーで、クロノグラフは4-5時位置を選ぶ場合もある。しかしこのモデルは、12時位置にある。初めは理由がわからなかったが、実際に着用し、眺めていて気が付いた。カレンダーが目立たないのだ。そもそも12時のインデックスは他より2倍の太さにするというのが通常。そこでタグ・ホイヤーでは、その幅にカレンダー窓を収めることで12時位置に違和感なくカレンダーを入れた。これもうまいデザインだ。

柔らかにカーブするドーム型の風防ガラスは、サファイアクリスタル製。その内側に速度などを計測できるタキメーターが収まる。
12時位置のカレンダーは、インデックス幅を同じサイズにしており、デザインにキレイに馴染ませる。

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　そしてムーブメントの変更。これまでは自社製クロノグラフムーブメント、Cal.ホイヤー02を使用していた。しかしこの機械に改良を加えたCal.TH20-00を開発。巻き上げ効率が高まり、パワーリザーブを約80時間にするなど、基本性能を高めている。

　ここ数年のタグ・ホイヤーは、コネクテッドウォッチやマリオとのコラボレーション、ゴールドケースを用いたダイバーズウォッチ、ラボグロウンダイヤモンドなど、前衛的な提案が多かった。しかしやはり「カレラ」には、こういうクラシックなスタイルがよく似合う。
歴史を意識しつつディテールを丁寧に進化させた「タグ・ホイヤーカレラクロノグラフ」は、タグ・ホイヤーの歴史を味わえる良作である。